
農家さんが一生懸命つくった野菜や果物を、国内はもちろん、海外にも販売し、たくさんの「おいしい」を生み出している株式会社生産者連合 デコポン。代表の井尻氏の農業に対するこだわりと、「農業をもっと楽しくおもしろくしたい」という熱い想いを語っていただきました。
農家を苦しめる3大要因

最近この話をする機会が増えてきているんですが、あまりにも当たり前過ぎて、大学の先生なんかは、何でこんなことに気付かなかったんだろうなんて言って、不思議そうな顔をするんですよね。農業が産業としてうまくいっていない理由は、大きく3つあると思います。まず1つ目は、農家に価格決定権が全くなかったこと。最近になってようやく、産直野菜、こだわり野菜と銘打って自分で価格を決定して販売する農家が出てきたけど、それもほんの数パーセントです。2つ目は、完全世襲制の歴史が長かったこと。やりたいという気持ちがある人が農業の世界に入ってこれなかったし、農家に生まれた人は、やりたくなくても農業をやらなければいけなかった。そのため、農業をやりたいという気持ち、他の産業からのノウハウが全く入ってこなったんですね。農業と他の産業との間にある壁を壊していくのが向こう5年くらいの農政の役割だと思います。3つ目は、作物の評価が外見第一であること。見た目が悪い作物は、市場には売れない。だから、農家は農薬や化学肥料を使ってしまう。そうしないと食べていけないんです。これが、農業が産業としてうまくいかない1番の原因だと私は思っています。デコポンをつくったのは、これを壊したいと思ったからなんです。
作物は、見た目ではなく中味

私は、愛媛のみかん農家の出身なのですが、夜になると、昼に収穫したみかんを選別する作業をするんです。大きさ別に分類し、少しでも傷が付いているものは、はじいてしまいます。はじいたものは、そのままでは買ってもらえないのでジュースの原料として売るんですよ。どれくらい値段が違うと思いますか?傷がついたものが5~10円/kg、普通に出荷するものが大体200円/kgです。こんなに違うんですよ。おかしいでしょ?市場への出荷というのは地域ごとに行うんですが、傷がついた作物は、それが入っている箱の価格を下げる。さらに、その箱を出した地域(組合)の市場からの評価も下げてしまう。傷がつかないようにするには、どうしたらいいか。一番簡単な方法が、農薬や化学肥料を使うことなんですね。つまり、農家は食べていけなくなること、それ以上に組合から仲間はずれにされることを恐れて、いやいや農薬や化学肥料を使っているんです。市場主導の、このおかしな流通を変えたい。流通を単純化し、外見重視じゃなく、安心度、安全性、おいしいさという農産物の中身で勝負したい。そうすれば、農家も一般生活者も喜ぶし、絶対いいことだ。そう思ったことが、デコポンをつくったきっかけなんです。
農業を、もっともっと楽しい産業に

外見重視の農業を壊すことは、農業を楽しくするためにも必要なことなんです。農家にとって1番うれしいのは、食べてくれた人から返ってくる、おいしいという言葉なんです。それを聞くと、またいいものをつくろうと頑張ることができる。おいしいのはもちろん、安全かつ安心して食べられるものを届けたいと思う。そう思ったら、農薬や化学肥料を使いたくなるのは当たり前のことなんです。一生懸命、楽しんで農業をやるためには、市場に出すまでしか考えない農業ではやっぱりだめなんです。生活者を喜ばすまでを考える農業が、つくる側にとっても1番楽しい農業なんです。そして、もう1つ大事なのが、気の合う仲間がいるということです。同じ想いを持った仲間がいることで、楽しいだけでなく、張り合いが出て勉強にも身が入り、何より励みになるんです。こうやって、農業を楽しんでいる親の姿を見て子どもたちが育っていけば、いやいや農業を継ごうなんて跡継ぎも出てこないと思うんですよね。農業ってかっこいい、親父には負けるもんか、っていう前向きな気持ちで農業を継ぐ若者ももっと増えていくはずなんです。現に、私たちの青年部にもたくさんの仲間がいるんですよ。それはやっぱり、農業を楽しんでいる親父の背中を見ているからなんですね。
人間にとって、本当に幸せなこと

最近の農業ブームは、日本人が農耕民族であることの現れなのではないかと私は思っています。戦後経済成長の中で、豊かさと幸せを求め都会に集まった大人たちと、テストでいい点を取ることを重視する「理屈の教育」に育てられてきたこどもたち。そんな生活に閉じ込められてしまった農耕民族の遺伝子にスイッチが入って、「おかしいおかしい」と言っているんだと思うんです。やっぱり、人間、理屈だけでは幸せになれないと思うんですよね。そういう意味でもやはり、農業を楽しい産業にするってことは重要なんです。楽しいと思ってもらって、もっともっとたくさんの人たちに体験してもらう。特に、こどものうちから自然の中で土に触れ、植物を育てることを経験してほしい。それを通して感性を豊かにすることこそが、人間の本当の幸せ、豊かさにつながってくるはずなんです。知育、徳育、体育という今の教育に食育を加えて、農業を体験してほしいですね。徴農制度なんて作ったらいいんじゃないですかね。(笑)
井尻さんにとって、農業とは
農業はすべての産業、すべての人に通じている産業。だから、農業はみんなを喜ばすことができるし、みんなを幸せにできると思っています。ものを食べているときは、みんな幸せな顔をしていますからね。そういう意味で、よりよく生きるということに最も密接に関係する産業だとも言えると思います。また、人間が動物であるということを考えると、絶対に失ってはいけない産業だとも言えますね。そんな農業の世界で、世のため、人のため、自分のためになった証が残せればいいなあ。そう思ってます。
次回、『日本を、耕す』の第2回目は、同じく千葉で野菜の宅配販売をされている、ミレー株式会社代表取締役 早川世治氏のお話をお届けします。お楽しみに。